海月の狂歌集


時追えば 時に追わるる 身の上よ

 為すも為さぬも 只過ぎ逝くや




  世の中(一)

   世の中は
   誰(た)の為に在る
   作り物
   壊しゃ罪人
   磨きゃ気違い

   眺め居りゃ
   役立たずかよ
   穀潰し
   どうすりゃええぞ
   為す術の無し

   こんな世に
   生まれ来たるが
   運の尽き
   啼かず飛ばずに
   ひっそり生きよか



  世の中(二)

   日は昇り
   日は沈めるも
   昔から
   変わりしものは
   人の生き様

   魔の吹ける
   笛におどるや
   皆の衆
   己を捨てて
   流行る川かな

   求むるを
   違えて人は
   どこへ行く
   先祖の野生
   掘り起こすかや



  世の中(三)

   哀しぞや
   世間は何故に
   乱るるや
   これも偏に
   大口オバケ

   その口で
   何故に惑わす
   無垢人を
   お主ゃこの世を
   如何にしたいぞ

   喰らうなら
   手間隙かけず
   喰えばよい
   お主の描いた
   図面破りて



  神(一)

   右見ても
   左を見ても
   神ばかり
   この世は神の
   楽園なるぞ

   さも在らん
   人に託せば
   この星も
   いつまで在るか
   判らぬ明日

   その人を
   見て見ぬ振りで
   知らん顔
   それで勤まる
   神の仕事は



  神(二)
   
   神在らば
   苦しむ人を
   何とする
   因果じゃ何じゃ
   言うてくれるな

   その力
   切に願いし
   人を無視
   それで信じろ
   寝言を言うな

   頼るとて
   他に当て無く
   神信ず
   弱き者らは
   野晒しの刑



  神(三)

   それなるに
   神を信じろ
   誰が言う
   ワシは一度も
   逢うては無いぞ

   顔知らず
   考え知らず
   技知らず
   声も聴けなきゃ
   姿も見せぬ

   その方を
   如何に信ずや
   世の人よ
   我間違いか
   君間違いか



  獣

   獣とて
   人より少しゃ
   ましだもの
   欲に包(くる)まる
   生き物真似ず

   理(ことわり)を
   知らぬ生き物
   只哀れ
   我ら野山で
   自然に生きる

   獣とて
   蔑むなかれ
   人間よ
   我が生き様を
   学ぶが良かろ



  
  変人   

   人は皆
   口を揃えて
   我に言う
   こんな変人
   見た事無いぞ

   目の前に
   居るのは誰ぞ
   この我ぞ
   見た事の無い
   その変人ぞ

   おぬしらの
   前に佇む
   この我が
   何故に見えぬか
   摩訶不思議なり



  友(一)

   苦しみの
   中に生まるる
   友情は
   求むるべきも
   求むる難し

   楽な日に
   出来たる友の
   つまらなさ
   浜の真砂と
   値打ちも似たり

   我が求む
   情けの友の
   数在らば
   如何な天下も
   思いのままぞ



  友(二)

   我富めば
   有象無象の
   友の来る
   それがこの世の
   理(ことわり)だとか

   貧すれば
   数多の友は
   去り消えて
   それもこの世の
   理だとか

   それもまた
   善しと思える
   今の我
   静かに逝くも
   又 理ぞ



    

  あの世(一)

   生まれ来て
   いつかは逝くや
   そちらさん
   急かず騒がず
   時節を待ちな

   嫌になりゃ
   帰って来れる
   その世なら
   今直ぐ行くに
   日帰り旅行

   血の池や
   針山巡り
   写真撮る
   今後の為の
   視察の旅行



  あの世(二)

   我逝かば
   閻魔も踊って
   喜ぶや
   新たな責め苦
   おもい浮かべて
   
   閻魔殿
   我の屁理屈
   手強いぞ
   下手すりゃ地位も
   取って変わるぞ

   この我が
   閻魔のイスに
   座るなら
   地獄巡りの
   ツアーを作ろ



  あの世(三)


   生きてさえ
   思うに成らぬ
   我成るに
   死したる後の
   何を煩う

   そんなもの
   逝ってみなけりゃ
   分かりゃせぬ
   今はこの世で
   楽しむだけよ

   尚の事
   在るか無いかも
   知れぬ世を
   一喜一憂
   只浅はかぞ



  少女((一)

   恋狂い
   親の小言も
   うわの空
   愛し恋しと
   時計も歌う

   夜な夜なに
   白馬の王子
   訪ね来て
   誘うは夢の
   花園なるか

   恋う日々よ
   メシは食わねど
   その胸は
   君で溢るる
   張り裂ける程 



  少女(二)


   恋うなるは
   安上がりかな
   メシ要らず
   只只 時が
   在るだけで善し

   恋う日々は
   税金要らず
   世も要らず
   要るはアナタの
   面影だけよ

   面影も
   わたしだけに
   在れば良い
   他人の事など
   見なくて善いの



  法(一)

   法の名が
   人を殺すは
   ご時世か
   それを作るは
   雲上の人

   力無き
   下々いびり
   楽しむは
   其の気の有りし
   御(おん)方々ぞ

   上みだれ
   中は笑いて
   下は泣く
   立派な法が
   在ればこそぞや



  法(二)

   この世には
   神も仏も
   おりゃせぬぞ
   ネロの創りし
   法が在るのみ

   その法に
   弱き人々
   口閉ざし
   生きるに非ず
   生かさるるなり

   下々も
   居なけりゃ祭り
   適わぬと
   生殺与奪
   握るは誰ぞ



  法(三)

   賢けりゃ
   そんな法律
   無視するに
   哀しぞ我は
   バカの親玉

   只偏(ひとえ)
   法を守りて
   バカをみる
   火傷したとて
   目は覚めまじき

   果てなるは
   法の力で
   首絞めて
   我は登るや
   終(つい)の階段



  教育

   メシ喰わせ
   太らしゃそれで
   良いのかや
   挙句に出来る
   その子が不憫

   親として
   子が可愛けりゃ
   知を与え
   心を与え
   時を与えよ

   さればとて
   この世にゃ悪が
   多すぎて
   親も惑わせ
   引っ張りこむや



  政治屋

   国の為
   民の為にと
   志
   やがて腐るか
   肥溜め並みに

   肥溜めが
   比べられては
   たまらんと
   夜逃げしたとか
   噂されおり

   さてもさて
   そこまで腐りゃ
   立派じゃよ
   如何な道でも
   極めるはよし

   よしなれど
   悪を極めて
   鑑みりゃ
   三尺の棚
   その身も哀れ

   各々よ
   初心を想い
   励まんや
   さすれば民も
   安らかなるぞ



  心根

   弱き身を
   いたぶり何が
   面白や
   我が民族は
   誇り捨てたか

   今の世は
   誇りでメシは
   喰えぬとか
   さてもさてさて
   哀しぞや

   毅然たる
   自負を纏うは
   過去の日か
   三文服は
   心も寒き









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