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遺されし 椿の哀れ この庭に
主無ければ 如何に咲かんや



亡き友が 八重に愛でれし 椿花
時節も待たず 恋故散るや



脳天に 雪花の響く 二日酔い



父の忌や 皐月の闇に ただ詫びて



叶わぬば 皐月の闇よ その奥に
我の想いを 眠らせ給え



我が慕情 砕け沈むや 皐月闇



見上げれば 昔馴染みの 星の居り
海で逢おうと お誘いのあり



鳴け喚け 振られ蛙よ 自棄蛙
朝にゃ忘れて たの君恋わん 



つまらぬや 今宵の野良は 蛙のみ
フクロウ逢瀬で エンマは寝坊



椰子の実と 戯れ遊びゃ 忘られる
我を焦がれて 舞う蛍さん



夏来たと 騒ぐ蛙は 水揺らし
寡黙の蛍 水面を照らし



里の夜は 水面賑わう 苗の田や
蛙の揺らす 星月蛍



夏浅く 過疎の蛍の 哀れかな
恋わんとするも 君の居なくば



娶らんと 短き命 燃やせるも
君の居なくば 叶わぬ恋や



恋空に 花も蕾の 乙女月
明日の殿御を 夢見るように



明かり無き 里を温めて 寒の月



人の皮 被りて笑う 武器商人
欲の谷間で 今日も囁き



雲掃い 蛍泣かすや 初夏の月



君求め 彷徨い舞える 蛍火は
涙の淵に 想いの澱み



この夜に 月は寝坊ぞ 蛍舞え
愛しの君の 心照らせや










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