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往く年は 君を攫いて 涅槃西風(ねはんにし)


里の夜は 冬に染まりて 風の中


木枯らしの 他には無けり 里の夜


同胞の 去りて寂しや 戊子(つちのえね)
偲べる我に 涅槃西風かな


海荒れて 涅槃暴るる 木々騒ぐ
逝きし友らの 別れの宴


我が生 流るる星の まじろぎよ
為すも為さぬも 見果てぬ夢と


残り日を 数えて吹くか 涅槃西風


為そうにも 矢のひととせに 術もなく
愚か身一つ 戯れ遊ぶ


来る年を 如何に遊ばん 楽しまん
枕高めて 初夢見んや


雪霙 己丑は 凍え明け


寒空に 一人淋しや 十日月


去る人よ 想い乱して 千千の夢
戯れし浮世に 打ち捨て逝くや


凍えるも 君を重ねて 寒の月


黎明に 霜柱泣く 山の路


カメさんと 寡黙の我と ダチョウさん
三者揃って 無言の行よ


片恋や 寄せる思いの 届かずば
乙女の月は 涙に隠れ


足摺や 木枯らし眠る 雨の夜は
恋うる椿も 香りを忘れ


太平の しじまを破る 木枯らしの
荒む喧騒 眠れもできず


余りにも 美し故に 寒の月
夜空に一人 凍えるばかり


凍え身が しじまの闇に 立ちて待つ
月の遅きよ 想いの哀れ






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