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乙女月 幾らそなたが 美しも
斯程に冷えりゃ 待ても出来ぬぞ 


芒さえ 乙女の月を 恋うように
手を振り呼ぶや 虫無き野辺に


里山の 紅葉眺むや 乙女月


老いぼれが 乙女相手に 戯れりゃ
しとどに凍え すごすご帰る


見上げれば 月の静かに 聡明に
愚かな我を 哀れむように


万物の 王たる人の その驕り
星を壊して 何処へ往かん


現世に 恐ろし魔物 君臨す
名は人間よ 神も逃げたと


君想い 眺めし月や 初恋の
遠き昨日が 盃満たし


初恋を 霧の包みて 老いの夜


初恋や 我老いたれば 彼のひとも
老いて眺むか 過ぎ行く秋を


昔日を 甘く切なく 酌むなれば
盃満たす 縁(えにし)哀しや


其処かしこ 雲ある月の 美しく
自惚れ昇りゃ 鼻持ち成らず


満月や 雲無き空に 自惚れりゃ
そなたの側に 星も寄らぬぞ


自惚れて 輝き増せば 満月よ
星ら離れて そなたを妬む


言の葉を 失くした木々よ 我が心


木枯らしに 言の葉盗られ 一人酒


山道は 秋の名残りに 照る月よ


山歩きゃ 風情楽しむ 月の在り


喧騒を 嫌いて歩く 夜の山
しじまに浸り 寡黙の我は


恋うれども 寡黙に秘める この想い
切なき様を 月に照らされ 









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