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鈴虫や その淋しげは 何事ぞ


せせらぎや 紅染む紅葉 其処かしこ
寡黙に立つも 其処かしこ哉


逢瀬とて 言の葉散らす この夜は
やがての冬に 月も泣くかな


君の声 紅葉と共に 散りて秋


散りて尚 我を温める 紅葉かな


千年を 契らんとても 浮世風
頬染む君を 奪いて吹くや


まま為らぬ 恋路を嘆く 枯れ尾花
月の明かりに よよと泣くかな


千年の 恋ぞと抱く 細き肩
君の涙も 甘く香りて 


紅葉去り 尚も凍えん 一人夜は


千年の 時の流れに 君恋えば
万年青の花も 心乱して


言の葉の 一つ二つと 散り行けば
凍える夢や 暮れの秋かな


戯れに 遊び疲れて 夜は冷えて
我が家に帰りゃ 盃の待つ


これはまた 終いの秋に 温き雨
蛙寝ぼけて 春を歌うや


御業かや 秋も様々 戯れて
葉の無き木立 蛙の歌よ


白無きと 白髪を染めりゃ 白霧が
白きる我を 白けて眺む


黒なるは 黒き眼(まなこ)よ 黒き髪
黒八丈に 黒百合愛でん


今日からは 暦が冬と 言うけれど
子犬の散歩 汗に溺れて


逝く秋は 寡黙の闇に ただ更けて


人故に 万象狂う 末の世や


一雨に 冬の目覚めて 我震え










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