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海さえも しじまに眠る 暮れの秋
昨日の怒涛 想いて一人


彼のひとの 移ろい知れる あき風に
言の葉散らば 乱るる心


行く秋や しじまの似合う 星月夜


星の空 紅葉の舟で 漕ぎ行けば
君待つ川で 逢瀬に酔わんや


紅葉舟 揺られて揺れて 君の傍


人知れず 君を訪ねん 紅葉舟
櫓の音にさえ 気を配らんや


一片に 想い散らせて 紅葉かな


倫ならぬ 恋の哀しや 星の下
紅葉の散れる 音さえ恐れ


今宵また 君に通うや 紅葉舟


手を取れば 紅葉の舟の 色染めて
風もざわめく 逢瀬の夜は


近々に 木枯らし騒ぐ 月回り
残る紅葉の 哀れに散るか


めっきりと 虫の音遠き 暮れの秋


虫でさえ 冬の備えに 勤しむも
我は愚かに 戯るばかり


冬来ても 陰陽の隙 掻い潜り
歌を聞かせや 眠れる虫よ


冷え込めば 紅葉愛でるも 能わずと
窓辺に立ちて 盃愛でん


雨よ雨 紅葉を奪い 君奪い
心寒きぞ 我は一人で


欲捨てて 満ちて足りたる 清貧の
安らぎ既に 化石と成りし


清貧や 化石と成りて 埋まる家
掘り起こされよ 赤絨毯剥ぎ



この雨よ 嫌がる秋を 連れ去るか


恋う我の 三日月隠し 紅葉雨





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