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その声も 哀れと聞こゆ 末の虫


去るひとや 夢の狭間に 秋の風


空きの秋 実を探す身は 箆(の)持ち野へ
梨は無しゆえ 垣より柿取り


雷や 闇を引き裂き 夏送り


鈴虫や 月の無い夜を 歌染めて  


独り身を 嘲て虫は 恋騒動


夜もすがら 君を求めて 虫の恋
口説き文句も 十匹十色


虫々の 恋の顛末 しかじかと
囁き草の 噂話や


鬼灯や 秋に誘われ 紅染めて


石垣に もたれて眠る 案山子かな


移ろいに 趣添えて 鈴虫は


鈴虫よ 恋は不首尾か 淋しげぞ


闇夜虫 歌うばかりじゃ 芸がない
そっと抱き寄せ そなたの君を


変しいや あなたそなたは どなたじゃろ


冬来るぞ 備え出来たか キリギリス
窓辺で歌う 季節(とき)じゃ無いぞよ


雨じゃろと 今を鳴かねば 虫たちよ
あの世とやらで 悔やみはせぬか


天に雨 虫ら無視され 鳴くも無く
あめにあめ むしらむしされ なくもなく


秋や秋 つるべ落として 夜が来た


盃に 夜長楽しや 虫歌え


虫の音を 探して独り 叶崎
君なき今は 聞こえぬものを





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