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灼熱は 土中に隠れ やり過ごし
夜にゃ賑わう 墓場の宴


更ける夜は 涼しき風に 誘われて
想いの原に 君ぞ偲ばん


エンマさえ 愛しの君に 届けんと
夜な夜な送る 口説きの歌よ


鈴虫や 仲間連れての 合唱は
聴くに耐えぬと 盃愛し


鈴虫や 孤独に歌う その風情
耳は喜び 舌は潤い


ポンプ車の 準備できたぞ ホタル舞え


この夜は 花火に負けて 泣く月や


眠たげに 風車も止まる 夏の午後


文明の 音に負けじと 部屋の隅
命歌いて キリギリス哉


十六夜の 月は我が酒 盗み飲み
顔も赤らむ ほろ酔いきげん


夏バテや 寝待の頃にゃ 高いびき


黄昏に 秋を告げるや 法師蝉


もの想や 浮生捨てての 山篭り
叶わぬ夢と 知りつつ尚も


蜩や そなたの刹那 身に沁みる
我も似た者 その日暮らしよ


カナカナと 森を引き裂き 蜩は


涼風に 誘われ歩く 月の野に
囁き草は 誰(た)の恋語る


恋うるとて 言の葉持たぬ 侘し身は  
囁き草を 恨みに眺む


月の野や 囁き草は 涼風に
虫ら集めて 移ろい語る


君恋えば 月も泣くよな 虫の原


今夜こそ 娶るとばかり 虫たちは
声の限りに 歌いて候




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