戯れに 立待ち月を からかえば 

 雲に隠れし 君まで来ぬや




更けるほど 冷え行く想い 切なくて

  星と凍えん 君恋う夜は




十六夜の 月は雲間に 顔出して

チラリと眺め また隠れるや




吹き荒れて 誰を誘うや 涅槃西風(にし)




あばら家を 軋ませ狂う 涅槃西風

為すも為さぬも ただ吹き荒れて




正月を 三度もするは これ如何に

 多重に生きる 副作用かな




寒空や 星も凍えて 震え居り




凍えつつ 歩くは夜の 獣道

  椿の紅に 誘われるまま




その紅に 寒さ忘るや やぶ椿




凍え身を 温めて一つ 椿花




シンとして 山の夜寒や 闇の底




文明の 欠片も無きぞ 奥山は

座する我のみ 穢れを纏い




霧雨は 只しんずかに 滲み渡り

  想い凍らす この冬の夜




ウグイスが 鳴くには早し 海の里

誰(た)の為咲くや 梅のにぎわい




寒空や 三日月舟は 雲波に

揺られて往くや 母住む島へ




冬の夜は しじまの野辺に 星々の

   囁きだけが 我を慰む




そこはかと 温もり秘めて 咲くつばき

  夜道流離う 我に優しや




遠き日の 恋の温もり つばき哉




しじま夜も 更け行くなれば 十日月

  惜しみ送らん 遠くの峰に


inserted by FC2 system