恋うひとは も少し待てば 来る筈ぞ

 月見の花よ 支度は良いか




エンマ殿 我が家の庭は 住み良いか

  仕事も忘れ 夜な夜な歌う




恋ゆえに 蛍は焦がす その想い

  虫らは削る その命かな




恋うるとは 熱きものぞや 昔から

夏に出会えば 火傷は道理




この暑さ 移ろい来たる ものなれど

  蝶よ花よと 愛で難きかな




ホトトギス 近頃妙に 静かじゃが

こっそり托卵 して居るのかや




つらつらと 想うに人は 頭良き

 それで苦しむ 未来の己




虫たちも セッカの声に 急かされて

  宴の準備 始めるそうな




我が庭に 集う虫らの 賑やかに

聴き分けするも 一苦労かな




鳥たちも 騒ぎ疲れて 眠る夜

  枕慰む 虫の恋歌




小さき身で 歌い続ける 虫たちよ

  その情熱の 羨ましきぞ




灼熱で 里中焼いたか 太陽よ

明日に焼くもの 残らぬ程に




乙女らの 恋の炎か ネムの花

陽射しの中に 尚燃えて咲き




灼熱の あの太陽は 幻か

 夜山涼しや 寛ぐ闇よ




夜山には 一夜限りの 街のあり

 朝には消える 蛍の宴




月無くも 名だたる星の 輝きに

酔いて咲けるや 月見の花も




つくづくと そなたの美貌 思い知る

 月見の花よ 何故に野辺ぞや




更ける夜に 賑わうものは 庭の虫

 鳥らは何故か 静まり居るや




里の夜は 涼しき中に 更けて行き

 明日の戯れ 夢みて寝るや




青山に 廃村(むら)去る人の 姿あり

  参れぬ事情 祖先に詫びて




待ち詫びて 骸晒すや 宵待ちの

 花の哀れと そっと取り除き




灼熱や 木陰探して 飛び込めば

  先客の牛 のそりと動く




牛でさえ 木陰で憩う この暑さ

 愚かな我は 日なた彷徨い




灼熱が 終わりし宵の 涼しさよ

 鳥も虫らも 寛ぎ鳴くや







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