20

盃に あれこれ浮かべ 飲み干せば
喉に刺さるや 昔の恋が


誰が為に 斯くも燃えるや 曼珠沙華
そなたの君を 羨み眺む


その姿 天女の如く 舞い踊り
彼岸花とて 此岸に咲くや


今は無き 村の辺りを 紅染めて
彼岸の花は 誰が為咲くや


紅燃ゆる そなたに似合う セイレイの
集う青山 誰(た)の声聞くや


凛として 愚かな我を 諭さんも
彼岸の花よ 此岸の苦悩


老いの身が 残暑残暑に 炙られて
灰の中から 煙を出すや


月舟に 残暑積み込み 海の果て
沈めりゃ明日は 涼しき秋よ


涼風に 目覚める里の 朝景色
やがて残暑が 騒ぐを知らず


逢瀬夜に 君の無ければ 虫たちと
泣き比べんや この長き夜を


我が恋の 亡き骸一つ 託したは
芒の海の あの月の舟


一葉を 風の攫えば 虫の音も
どこか寂しや 移ろう季(とき)は


温もりを ただただ恋わん 秋の宵
囁き草が 君を語れば


秋の夜は 甘く激しく 切なげな
虫らの恋に 埋め尽くされて


戯れ恋や 色は匂えと 散りぬるを


草原や 虫らの海に 耳溺れ


虫の恋 無下に流して 雨の降り


この雨に 君の温もり 奪われて
虫無き夜を 如何に過ごさん


しとしとと 愁いを連れて 秋の雨


降れや降れ 残暑冷まして 秋の雨








inserted by FC2 system